Experiential
Learning
ELMO(エルモ)は、体験学習型グループワークを行う教育団体です。
Medical
Observation
ELMOの理論的背景
うちの子は発達障害児?
北毛病院小児科 福江靖
3年程前のことです。中学生の息子を持つご夫婦が私の外来を訪れて,
「うちの子は○○症候群ではないでしょうか?」
と発達障害の病名を持ち出されたことがあります。
さぞ心配なことだろうと思いきや、露骨な病名の提示振りがいささか不自然であったので詳しい事情を聴いてみますと、最近息子が親の思い通りにならなくなったのでネットで検索したところその病名にヒットしたとのことでした。私の答えはこうです。
「まずそんな考えを捨ててください」
子どもの情緒的な成長を妨げる原因として、甲状腺機能異常などの内分泌疾患や脳炎・脳腫瘍などの脳の器質的疾患、そして先天的な発達異常は勿論鑑別しなければなりませんが、ストレスというものも決して無視できません。
実は子どもの成長にとって適度なストレスは必要不可欠なのですが、逆にストレスが不十分または過剰であると子どもの成長は妨げられます。
アトピー性皮膚炎やアレルギー性鼻炎は珍しい疾患ではありませんが、これがコントロール不良になると睡眠障害を引き起こし発達障害につながることがあります。 滲出性中耳炎や近視・遠視も放置されると過剰なストレスとなり発達を妨げます。ストレスフルな環境が発達障害の原因になることもあります。児童虐待はその典型例の一つです。これらのケースでは原因を解決することで発達を正常化させることが期待できます。
さて前出のご夫婦は、子どもの教育が思うようにいかない理由として発達障害を結論づけようとした少々感心しかねる事例でしたが、このような教育放棄的な病名付けは近年増えているような気がしてなりません(私見)。
注意欠陥性多動性障害、学習障害、広汎性発達障害、アスペルガー症候群、etc・・発達障害の病名は実に多彩です。しかしこれらの病名付けに本当に意味があるのか疑問に感じます。マイクロソフト社のビル・ゲイツがアスペルガー症候群であることはあまりに有名です。発明王エジソンは注意欠陥性多動性障害でした。黒柳徹子も同じ病名だそうです。「障害」の病名を付けられても障害者にはならずに、価値ある地位を持つ社会人に成長した事例です。
著名人を挙げるまでもなく、子どもを障害児として育てれば将来は障害者になり、社会人として育てれば社会人に成長すると考えます。むしろ子どもを社会人に育てるのは我々大人の義務でしょう。
障害も健常も区別なく子どもを立派な社会人に育てようとする親を、私は尊敬します。そして、その育児努力を全力で支援できるような地域医療を実現したいと願っています。今はまだ鋭意奮闘中。
そもそもELMOは障がい児と健常児の区別をなくした学習フィールドを構築する試みからはじまった体験学習プログラムです。障がいと健常の区別をなくす...聞こえは良い目標ですが、障害者自立支援法(現、障害者総合支援法)の制定により少なくない数の障害者とその家族が自ら命を絶たれ、出生前診断によって数多くの堕胎が行われている現代社会にあっては簡単なことではないでしょう。それでも敢えて障がいが差別されない環境を作りたい、みんなが素直に成長できる社会をつくりたい、様々な思いや背景が根底にあるELMOです。
プログラムについてもっと詳しい内容を知りたい方は「グループワーク基礎理論」を覗いてみてください。
なぜ医者がこんなことやってるの?という疑問をお持ちの方は「実践的ELMOアプローチ」を覗いてみましょう。ELMO的臨床スキルで対応した自験症例を紹介しています。